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神主様からのおことば
第3回「有事人生」に生きるむずかしさ
ときには、家族をも巻き込みながら、事にあたる
コラム

2022/12/29

リハビリメイクともご縁の深い於岩稲荷田宮神社(東京都新宿区左門町) 神主 栗岩英雄(くりいわ ひでお)さんよりいただいた素敵なお話をご紹介いたします。
都立小学校校長・幼稚園園長などを長らく務め、今なお日本国語教育学会常任理事など教育者としてご活躍中の神主様の心に寄り添うメッセージをお届けいたします。

於岩稲荷田宮神社
 

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第3回「有事人生」に生きるむずかしさ
ときには、家族をも巻き込みながら、事にあたる

今回「有事人生」の一つの例を私の実体験を通じてご紹介しましょう。

私は以前、「学校長」として多くの児童の教育や所属職員、教師たちを指導していく立場にあり、様々なできごとに対処していく毎日でした。
そこで起きた女性教諭M先生とのことをお話しいたします。
 
その先生は夫と別れて、二歳と四歳の子どもがおり、大変な毎日を送っているためか、前校長とはそりが合わず、私には問題教諭としての引き継ぎがなされました。
ぎりぎりの出勤、時刻が来れば会議の途中でも退勤してしまいます(子どもの迎えのため)。
校長や教頭には歯向かう、仲間の教師達も警戒気味、という状態だったらしいのです。

私が校長になってから、こんなことがありました。(40年以上も前の話になります。)
職員たちの希望でクリスマスの日に六本木の喫茶とホールを兼ねた店に踊りにいきたいということで、皆で年末ご苦労さん会を催すことになりました。
その話を聞き、M先生は早速校長室に飛び込んできて、反対を叫びました。
「私は子どもがいるので、行けません。そういう会をするのはやめてください。」
当然のことです。
「あなたはダンスがうまいと聞いていたのですが・・・」
「でも子どもがいますから、行きたくてもダメです。」
「校長に任せていただけますか。あなたも参加できるようにしますから。」
M先生は不審そうに、一応承諾はしてくれました。
私は妻に相談して、二人のお子さんと我が家で預かろう、我が家にも子どもがいるから、遊び相手になってもらうおうと考えたのです。
妻もOKしてくれ、子どもも喜んでくれました。
 
クリスマスの夜はおおいに盛り上がり、皆でダンスを踊り、歌を唄いました。東京郊外の方々なので、都会の真ん中に出てきて楽しむのは初めてだという方も多く、教職員たちの一年のご苦労を癒すことができました。もちろんM先生もダンスを楽しみ、ホールの本物のダンサーと颯爽と踊っていました。
さて、それからがまた大変。遅くなってしまったのでM先生が我が家に寄って子どもを連れて帰る頃には終電車も終わってしまったのです。
「それでは、我が家に子どもたちと泊まっていきなさい」となり、明朝、我が家で朝食をとり、私とM先生と子ども二人が一緒に出勤することになりました。
 
年が明けて3学期が始まりました。M先生は早めに出勤し、校長室に挨拶に来る、指導のための書類は詳細に書いて提出、仲間の教員たちとは笑顔で付き合う。
ついには道徳教育の専門家になり、女性校長にも昇任。立派な教師人生を全うしました。
わたしは「有事人生」をしみじみと味わう事になったのです。
 
以上は私が実際に体験してきた「有事人生」の生き方の一つでありますが、こうした事例を次もお知らせしていきましょう。なぜでしょうか。
それは「有事人生」は、口先のことではなく、それを自己の人生観として生きて行くならば、真に相談相手の心と触れ合うことになるからです。
私が体験してきたことは、そこに「有事人生」が一つずつ増していくことなのです。自分自身もまた、辛い事、嫌な事、苦しい事を背負っていくことになるのです。
分かりやすく言えば、他人の相談相手になるということは、自分にも「有事人生」という負担がかかっていくことなのです。
今回は家族をも巻き込んで、喜ばれてはじめて、相手の生き方を変えたことだったのです。
このような出来事の積み重ねで自分の人生が一層深く、広くなっていくのです。

 


於岩稲荷田宮神社 神主
栗岩 英雄(くりいわ ひでお)さん

東京都出身、昭和4年生まれ。「於岩稲荷田宮神社」神主として神職に仕える以前は、都内数多くの公立小・幼稚園の教諭、校長、園長を歴任。
千代田区立錦華小学校、幼稚園(現お茶の水小学校・幼稚園)を最後に41年間にわたる教職生活を定年退職。
国語科教育を専門とし、全国ならびに東京都小学校国語研究会会長を務め、千代田区教育委員会教育委員・委員長、日本国語教育学会常任理事・広報部長を歴任し、都や国から数々の表彰を受ける。
現在も東京都神社庁中央支部所属信仰者役員代表(総代)、日本国語教育学会常任理事、学校法人竹早学園「教員・保育士」養成所理事及び臨時講師、日本児童教育振興財団理事をはじめ、など役職を多数務めるほか、都内各地の小学校研究会の講師として150校以上の現場教育の指導や保護者対象の講演を行うなど日々ご活躍中。
 
●受賞歴
1956年 東京都知事・善行賞受賞
1987年 博報賞(国語教育)受賞
1990年 東京都教育功労賞を受賞
1994年 日本教育連合会「教育研究賞」を受賞
1997年 郵政大臣感謝状を受ける(天皇・皇后両陛下に拝謁を賜る)
1998年 千代田区政功労賞表彰
2000年 簡易保険特別功労賞(第38回諸井賞・全国受賞者14名)を受ける
2009年 平成21年春の叙勲「瑞鳳双宝章」受章(天皇陛下に拝謁を賜る)

神主様からのおことば 第1回「御朱印には<有事人生>という言葉を」 神主様からのおことば 第2回「よき聴き手、よき話し手」になろう

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